アベノミクスを振り返って|民泊に与えた影響

第2次安倍内閣発足が2012年(平成24年)12月26日からスタートし、現在7年が経過しようとしています。安倍政権は、初期こそ大胆な改革、得な金融緩和を行いましたが、最近は、消費税増税など、景気に対しては冷や水を浴びせるような政策が目立ちますが、アベノミクスに起因する規制改革が今回は旅館業や民泊などの宿泊事業に与えた影響を検証してみようと思います。

アベノミクス3本の矢

※2019.11.29追記 今から3年以上遡りますが、アベノミクス3本の矢とその手法の1つである黒田バズーカについて解説しました(https://fujino-gyosei.com/2016/02/02/post-941/)、あれからかなり待期間が経過しましたが、今回は総括として、政府の政策(アベノミクス)と民泊に与えた影響について解説します。

さて、アベノミクスですが、デフレ脱却、景気刺激を目指し行われた、第2次安倍政権から始まった改革なのですが、代表的なものは、 ❶大胆な金融政策 ❷機動的な財政政策 ❸民間投資を喚起する成長戦略

などですが、そのツールとして、日銀黒田総裁が行った金融政策が【黒田バズーカ(発表する度に株価が跳ね上がりました。)】と呼ばれていますが、具体的には、

  • 第一弾(2013.4):量的・質的金融緩和
  • 第二弾(2014.10):量的・質的金融緩和の拡大
  • 第三弾(2016.1):マイナス金利付き量的・質的金融緩和 のことです。

“量”とは国債買い入れによる資金供給量の増加(利付国債買い入れること、つまり国債とお金を交換することにより、史上にお金が流通しインフレ傾向を助長する)、

“質”とは長期金利の引き下げ圧力をかけることです。

当初は、金融政策一本やりでしたが、規制緩和(岩盤規制の緩和)を目指し、数々の規制を緩が行われましたが、これは、経済特区で実証実験が行われ(国家戦略特別区域法)、諮問機関である規制改革推進会議で検討されたのち、法改正、又は新法が制定されるというスキームが多く用いられました。※なお、規制改革が成功したかどうかはケースバイケースです(私は、民泊関連は成功したと思いますが、中には、単に外資や大企業などの大資本に事業を売り渡したような結果となったものや、逆に見かけだけで、中身は旧態依然とし全く変わってない化粧直し程度のものもあり、賛否両論あるでしょう。)

一応、過去のマニフェストから代表的なもの、具体的なものを抜粋してみましたが、これらは7年経過しましたが、実現しているでしょうか?

  • 「三本の矢」で 10 年間の平均で名目 3%程度、実質 2%程度の経済成長を達成し、雇用・所得の拡大を目指す
  • 物価安定目標2%の早期達成に向け、大胆な金融政策を引き続き推進する
  • 同一価値労働・同一賃金を前提、パートタイム労働者の均等・均衡待遇の実現に必要な法整備を行い、非正規労働者の処遇を改善する
  • 米国と共にTPP交渉をリードし、早期の交渉妥結を目指す。
  • 来年度から、より広く負担を分かち合う構造に改革することにより恒久財源を確保した上で法人実効税率の引下げに着手し、数年で20%台まで引き下げることを目指す。
  • 「総合科学技術・イノベーション会議」の更なる機能強化に努めるとともに、世界に伍するための「第5期科学技術基本計画」を策定し、研究開発の抜本的な充実を図る
  • iPS細胞を活用した再生医療・創薬や疾患の克服等に向けた研究を強力に推進する
  • 観光立国を推進すべく、2020 年に向けて、訪日外国人旅行者数 2000 万人、そして 2030 年には 3000 万人を目指す

現在、どうなったかといえば、確かに、多少景気は上向き、失業率は低下し、賃金水準(最低賃金)も少々上昇したものの、依然として完全にデフレ脱却には至っておらず、少子高齢化や旧態依然とした日本市場の状況は変わらず、アメリカ、中国の動向の変化なども相まって、成功とも・失敗とも言い難いと思います。

なお、政策実現の過程で結論は出せませんが、実際に国民総所得( Gross National Income GNI)は1割程度は回復していて、現状維持でもすごいという意見もありますが、最近は伸び率は鈍化しています。

国民総所得の推移 2007~2011まで(年度) 本表は内閣府公表データを利用

  (単位:10億円) 平成19年度平成20年度平成21年度平成22年度平成23年度
 20072008200920102011
国民総所得546,947.0521,612.7504,282.0512,682.5507,649.3

国民総所得の推移 2012~2017まで(年度) 本表は内閣府公表データを利用

  (単位:10億円) 平成24年度平成25年度平成26年度平成27年度平成28年度平成29年度
 201220132014201520162017
国民総所得508,080.0524,704.9537,423.5553,395.6554,987.9567,250.4

給与所得者には厳しい世の中

現在、確かに、失業者があふれかえる状況ではなくなりましたが(団塊世代の退職と、少子高齢化が雇用の面ではややプラスに働いているとも言えます。)、実際は、大量の非正規労働者とサラリーマンの(社会保険料を含む)税負担の増大を引き起こし、消費税率のアップは、これら安倍政権初期の遺産をかき消してしまった印象が拭い切れません。

これは、幻の第4の矢として実施され続けた財政健全化 (プライマリーバランス)にこだわりすぎ、大規模な財政出動ができず法人税を減税した一方で消費税を増税するという、いわば財政の穴埋めのための矛盾した増税や大規模な財政出動ができない現状が、経済の足を引っ張り続けていると言わざるを得ないでしょう。

税制についても、サラリーマンの基礎控除が低くなり、また、働き方改革で残業も制限され、働きやすくはなったものの、所得の低い労働者には「稼ぎにくい」状況になりましたので、民泊を始めとする副業や不動産投資、独立開業なども今後は増大するのではないでしょうか?

民泊・宿泊事業への影響

しかしながら、民泊については、2018年6月に住宅宿泊事業法が施行、同時に旅館業法の大改正という、大規模な規制緩和が行われました。これを見かけだけだという人も多いですが、私は、本当に大規模な、近年稀に見ぬ規制緩和であったと思います。事実として、宿泊施設の開業件数の伸びが顕著に表しています。

統計上の訪日観光客の伸び

政府の発表においても観光客は、改革前に比べ倍以上に増加し、観光収入も飛躍的に伸びています。

出展 観光庁資料 http://www.mlit.go.jp/common/001126601.pdf

なお、2016年の段階で、2020年(東京オリンピックの年)までに訪日観光客をさらに倍増させるように目標が定められています。※2018年段階で、訪日外国人旅行者は約3,119万人を達成しています。2020年はオリンピックイヤーということもあり、この目標はクリアされる可能性は十分にあります。

出展 観光庁資料 http://www.mlit.go.jp/common/001126601.pdf
観光庁統計データを元に、当サイト作成

法改正等の宿泊関連法令の改正・制定

2016.1大田区で民泊条例施行、民泊「特区民泊」スタート、その他大阪、福岡などが追随

当事務所が行政書士としては日本で初めで特区民泊申請(特定認定)業務を受任
  • 2018.6住宅宿泊事業法施行:180日の日数制限を条件に民泊解禁
  • 2018.6旅館業法改正:1室から旅館やホテルの営業可能に。設備要件、フロント要件大幅緩和
  • 2019.6建築基準法改正:木造3階建て・準耐火構造でも、一定の回収を行えば旅館業が可能に

その他、消防法施行令改正による特定小規模用自動火災報知設備、スプリンクラーの設置要件緩和等関連する法令の緩和が行われました。

改正前

●旅館業法は、ホテル10室以上、旅館5室以上の最低部屋数の制限、事実上フロントが必置(対面受付が原則)であったりと、大規模な宿泊施設を想定した規定でした。

(参考:その他、小規模宿泊施設においても、多数のトイレや洗面所個数の設置が国のガイドラインで推奨され、これを各自治体が拡大解釈し、定員5名の簡易宿所なのにトイレが4つ必用など、上記を逸した基準を提示する自治体も多数ありました)

改正後

●1室から旅館・ホテルが可能に。

ICT機器により、直接対面しない受付が解禁され、フロント廃止が可能に(自治体によります。)、設備の個数要件も大幅に緩和

●特区民泊により、旅館業よりも緩やかな許可要件で宿泊施設が営業可能に(2泊3日以上宿泊が要件)

●住宅宿泊事業により、さらに住宅からの宿泊施設への転用が容易に(ただし、180日に日数制限付き)

最後に、政府の目標は達成されそうですが、一方で宿泊施設数の増加、さらに、為替レートなど様々な要素が絡み合い、民泊や旅館業の宿泊市場は、特に都市部や一部観光地で競争が激化しています。

2018年春頃までは、開業すれば儲かるというビジネスモデルが成立していましたが、現在は、戦略的、機動的に宿泊施設を運営していく必要があり、安かろう・悪かろうというビジネスモデルは人気観光エリアでは淘汰されつつありますので、この辺りをよく考え運営していただければと思います。

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