今回は、旅館業法、消防法以外にも、防火関係の規制について、建築基準法の規定について重要ポイントを解説します。建築基準法は、2019年6月に改正され、特に木造建築物については、大幅に緩和されましたが、依然として宿泊施設については、防火レベルが高くなっていますので、ご注意ください。
なお、民泊、旅館業については、土地を取得して新たに建設するよりも、既存建築物を転用する場合の方が圧倒的に多くなっていますのでリフォーム程度で済むという考えの方が、業者を含め多いのも事実ですが、旅館、ホテルは人を宿泊させる施設ですので、安易に考えず、法規制を正しく理解することが重要です。
ホテル旅館と一般住宅の相違点
一見、旅館ホテルと住宅(戸建て住宅やアパートなどの共同住宅)は見かけは似ていますが、建築基基準法の規定はかなり異なります。物件を取得する場合、消防設備やレを管業としての設備についつい目が行ってしまいますが、そもそも建築物としての要件を満たしていなければ旅館業の許可を取得することはできません。
もちろん旅館業法と建築基準法とは管轄が違いますが、建築基準法の「ホテル旅館」「簡易宿所」の基準に適合した建物でなければ、許可を得ることは難しく、また何らかの理由で営業許可を取得したとしても、建物を管轄する自治体(建築主事がいる場合は市町村、いない場合は都道府県が管轄です。)の権限で是正命令などが発せられる可能性もあります(ちなみに、消防法令違反であれば、施設の使用禁止命令なども可能です。)
なお、用途変更の申請(建築確認を出した時の用途を変更する手続き)が不要な面積であっても、例えば住宅からホテル旅館に用途を変更する場合は、建築基準法の変更後の規定(つまり、ホテル旅館の規定)に適合する必要があります。
特殊建築物
ホテルや旅館などの宿泊施設は建築基準法上、特殊建築物に該当します。特殊建築物は文字通り 特殊な用途を持つ建築物のことで、不特定多数の人が使う建築物(映画館や旅館、デパート)や衛生上・防火上特に規制を厳しくすべき建物などが該当します。以下、建築基準法の特殊建築物の例です。
特殊建築物 建築基準法別表第1(抜粋)
(1)劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂、集会場など
(2)病院、診療所(患者の収容施設があるものに限る。)、ホテル、旅館、下宿、共同住宅、寄宿舎など
(3)学校、体育館など
(4)百貨店、マーケット、展示場、キャバレー、カフェー、ナイトクラブ、バー、ダンスホール、遊技場など
(5)倉庫など
(6)自動車車庫、自動車修理工場など
用途変更とは?
用途変更とは、 用途変更とは、既存建築物の現在の用途から他の用途へ変更することです。 つまり、建築確認の変更ということなのですが、200㎡を超える面積を他の用途に変更する場合、手続きが必要となります。具体的には、建築主事のいる管轄行政庁(又は指定検査機関)に申請を行います。
なお、用途を変更する部分の床面積が200㎡以下であれば、申請手続き不ですが、建築基準法には合致する適法な状態としておく必要がありますので、以下で説明する相違点にご注意ください。
建築基準法違反への罰則や行政処分
建築基準法の罰則の紹介ですが、建築基準法に適合しない施行については禁止されており、罰則規定もあります。以下のような理由で、建築士や行政書士、建設業者は建築基準法に明らかに違反する工事に関与することができないのです。
建築基準法第9条第1項:建築基準法令の規定又はこの法律の規定に基づいて許可に付した条件に違反した建築物又は建築物の敷地については、当該建築物の建築主、当該建築物に関する工事の請負人(請負工事の下請人を含む)若しくは現場管理者又は当該建築物若しくは建築物の敷地の所有者、管理者若しくは占有者に対して、当該工事の施工の停止を命じ、又は、相当の猶予期限を付けて、当該建築物の除却、移転、改築、修繕、模様替、使用禁止、使用制限その他これらの規定又は条件に対する違反を是正するために必要な措置をとることを命ずることができる
➡行政指導を無視、是正しない場合は、法第9条1項、7項又は10項より、➡工事停止、使用禁止、除却命令( 法第9条第13項により、建物所在地、命令を受けた人の住所、氏名等の公表・・・標識の現地設置など)
➡命令に従わない場合は、法第98条により「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」
関係者の処分
違反建築の施工を引き受けた業者に対しても処分がなされる場合があります。具体的には、違反建築に関係業者の業務の停止や営業許可・免許の取消しなどの行政処分が想定されます。
- 建築士:建築士法による処分(大臣の処分(懲戒、業務停止、資格はく奪など))
- 工事をした施工業者:建設業法による処分など。
- 宅建業者(不動産業者):宅地建物取引業法による処分など
- その他、施工管理技士、行政書士なども管轄法令により責任に問われる場合があり。
行政代執行
例えば、違法な増築などの違反建築物で周囲に危険が及ぶ恐れがあるなどの理由があれば、上記命令などの是正措置に従わない場合は、管轄自治体は「行政代執行」を行うことができ、つまり取り壊して費用を所有者などに請求することが可能です。
建築基準法上の「宿泊施設」と「住宅」との相違点
ホテル、旅館簡易宿所については建築基準法でF特殊建築物という扱いになり、防災レベル等は、一般の住宅に比べ格段に厳しくなります。
大規模な建物であれば、建築確認そのものを変更し、住宅➡ホテル旅館に変更(用途変更)の確認申請申請を申請し建築基準法上のカテゴリー自体を変更することになりますが、対象面積に満たなくてもホテル旅館の基準に適合していることが必要です。以下、重要なポイントを列挙します。
❶3階建以上の耐火構造の要件と竪穴区画
旅館ホテル、簡易宿所などの特殊建築物は、原則として3階以上の階に設置する場合は、耐火建築物でなければなりませんでした。したがって、2019.6.25までは、3階建ての木造建築物などでの営業許可は非常に困難で、ほぼ不可能でした。
しかし、法改正により、主に竪穴区画を設置することにより、許可取得が可能となりました。規制は緩和釣れていますが、例えば準耐火の住宅を転用する場合には、竪穴区画は、準耐の壁を 小屋裏又は天井裏に達するようにし、出入りの扉は、通常は防火戸を設置するのが一般的です。
竪穴区画:吹抜けや階段、エレベータシャフトのように縦に抜けた部分は、煙突化現象(煙突効果とも言いますが、要するに、穴の下で火災が起こると上昇気流が発生し、建物全体に燃え広がる恐れのあります(キャンプなどでこれを利用したロケットストーブ、ロケットコンロという器具があります。))により危険な箇所で、火炎の熱や炎、有毒ガスを容易に上階に伝えてしまいます。なお、階段は避難経路でもあり、階段が使えないと被害が大きくなります。したがって、3層(3フロア)以上の竪穴には、竪穴区画という防火区画が必要となり1967年から施行されています。
❷接道義務
そもそも、住宅であっても幅員4m以上の道路(建築基準上の道路)に間口2m以上で接していない土地は、住宅であっても、原作として建築はできません。旅館ホテルの場合、これに加え、路地状敷地(旗竿地)の制限があり、建設(営業)できる土地が限定されます。
また、東京都のように条例で、接道の間口を広げている自治体もありますので、ご注意ください。
❸その他の設備や構造上の相違点
ホテル旅館 | 住宅 | |
階段 | 階段の幅 75cm以上(120cm以上) 踏面の長さ 21cm以上(24cm以上) 蹴上の高さ 22cm以下(20cm以下) ※廊下の通路幅は居室合計200㎡超の場合は両側居室1.6m以上、片側居室1.2m以上 | 75cm以上 15cm以上 23cm以下 |
2以上の直通階段の設置 | 主要構造物が準耐火物構造又は不燃材料の場合 ・宿泊室 200 ㎡超の階に必要 ・その他(それ以下のグレード)の 場合は宿泊室 100 ㎡超の階 | |
界壁 | 防火上主要な間仕切壁を準耐火構造とし、小屋裏又は天井裏に達するようにすること | |
内装仕上げ | 旅館等の用途に供される床面積が 200 ㎡以上➡居室及び避難経路の内装仕上げ を難燃材料等 | |
非常照明 | 設置必要 | |
路地状敷地 | 不可 | 可 |
接道 | 4m以上の幅員の道路に2m以上接道すること(東京都の場合は4m(条例)) | 4m以上の幅員の道路に2m以上接道すること |
3階以上の階 | ~2019.6.25 耐火構造以外は不可 2019.6.25~ 準耐火でも可。ただし防火区画(竪穴区画)が必要 | 区画免除 |
https://fujino-gyosei.jp/kaidanryokan/
その他旅館、ホテル、簡易宿所特有の規定
- 5階以上の階に避難階段を設置(5階以上の階の床面積の合計が100㎡以下である場合+ 主要構造部が準耐火構造であるか、又は不燃材料で造られている建築物は不要)
- 延床面積 500 ㎡超➡排煙設備
※リフォームのみでも建築基準法に適合する必要がありますのでご注意ください。
構造別の防火区画工事等の費用(参考例)
これまで説明してきたように、建物の構造、階数により建築基準法に適合させるための経費は異なります。以下、参考金額と施工個所などを記載します。
延床面積が150㎡程度の建物の場合の例
構造 | 木造2階建 | 木造3階建などの準耐火構造 | 鉄骨3階建などの耐火構造 |
防火区画(竪穴区画) | 不要 | 必要 | 必要 |
上記費用 | 0円 | 防火区画工事(壁+屋根裏+防火扉)200万~400万程度(防火扉の奇異数により価格は大きく変わります) 防火扉30~40万円/個 | 同左 |
非常用照明設備 | 必要 | 必要 | 必要 |
上記費用 | 2~5個程度 20,000円/個+工賃 | 3~5個程度 20,000円/個+工賃 | 同左 |
自動火災報知設備及びその他消防設備 | 必要 | 必要 | 必要 |
上記費用 | 無線式(特定小規模規模設備用)可 30万円~100万円程度 | 無線式(特定小規模規模設備用)不可➡有線式P型2級など 100万円~200万円程度 | 同左 |
避難器具 | 必要 | 必要 | 必要 |
上記費用 | 0~数万円 | 数万円~100万円 小規模の場合、避難梯子2個程度 | 数万円~100万円 小規模の場合、避難梯子2個程度 |
参考:避難器具の設置要件(宿泊施設(旅館、ホテル、簡易宿所、民泊))
消防法別表該当区分 | 用途 | 2階以上又は地階(地下) | 下の階にも宿泊施設がある場合 | 避難器具の必要個数 | 適応避難器具 地階 | 同 2階 | 同 3階 | 同 4、5階 | 同 6階以上 |
5項(イ) | 旅館、ホテル、簡易宿所、民泊(住宅 宿泊事業、特区民泊) | 収容人≧30人 | 収容人≧10人 | 収容人数≦100(200)までに1個 100人(200)増すごとに1個追加 | ・避難梯子 ・避難用タラップ | ・滑り棒 ・避難ロープ ・避難梯子 ・避難用タラップ ・滑り台 ・緩降機 ・避難橋 ・救助袋 | ・避難梯子 ・避難用タラップ ・滑り台 ・緩降機 ・避難橋 ・救助袋 | ・避難梯子 ・滑り台 ・緩降機 ・避難橋 ・救助袋 | ・避難梯子 ・滑り台 ・緩降機 ・避難橋 ・救助袋 |
通常は避難梯子か避難ロープ | 通常は避難梯子 避難ロープ 緩降機 |
4階以上の階については、避難梯子が使用できますが、規制が厳しくなります。具体的には、窓枠に引掛けて展張する「吊下げ」避難梯子(商品では「オリロー」など。)が設置できるのは3階までで、4階以上の階に設置する避難梯子は「ハッチ式(固定式)」になりますのでご注意ください。4階以上になると、緩降機の方が一般的です。したがって、定員10名以上の場合は注意しましょう!