特区民泊について、1月29日に全国初の条例が施行されてから既に4か月が経過し、また、4月からは大阪府でも受付が開始され、申請件数は徐々に増加しています。そこで今回は、特区民泊の中間整理として、現状の紹介と新たな特区民泊の可能性についてご紹介したいと思います。
特区民泊とは
特区民泊における特区の意味は、「民泊特区」ということです。つまり、特区の中では、通常は許可基準が厳しい旅館業について、特別に旅館業法の規定を除外することにより、規制を緩和するというものです(もちろん民泊(現在の無許可の民泊の営業)は旅館業法上の宿泊に当たるということに異論はないと思いますが)。
特区民泊という言葉は、おそらく2016年1月の東京都大田区の説明会で使用されたのが最初ではないかと思われます。私は1月27日から特区民泊という表現を使用していますが、旅館業法の適用を受けた正式な民泊を除き、特区民泊は、現在、日本で唯一と言っていい、法律で認められた民泊の営業形態ともいえます。
現在、新法制定により民泊を解禁するということが取りざたされていますが、特区法の制定と条例施行により、1月末から民泊は既に解禁されているのです。
国家戦略特区とは何か
特区民泊については過去多くの記事で記載していますが、もう一度ここで簡単に概要を説明します。
まず「特区」についてですが、正式には国家戦略特区といい、「産業や国際競争力の強化及び国際的な経済活動の拠点の形成に関する施策の総合的かつ集中的な推進を図る」ことを目的とした「国家戦略特別区域法」(平成25年法律107号)によって国が指定する区域のことです。
民泊以外にも様々な区域が法定されていますが、具体的な内容は多岐にわたり、人材活用、雇用、医療、農林水産業、教育、保育等の規制緩和や法律の特例、特定の目的のための施策推進などが進められています。民泊以外では、「ドローンで薬などを宅配する特区(航空法の規制緩和)」や「介護ロボットの活用」、「外国人の就労を緩和(入管法の特例)」する特区などが代表的です。
ちなみに、民泊は「滞在施設の旅館業法の適用除外」を行う区域で、この区域内では旅館業法の適用が除外され、宿泊施設の営業許可要件が大幅に緩和されます。
特区民泊の実施地域と現状
特区民泊が実施できる区域は、①国が特区に指定した区域で、かつ、②その区域.の自治体の条例が制定し施行されている必要があります。現在次の地域が国に指定されています。
【関東】東京都、神奈川県、千葉県(成田市、千葉市) 【近畿】大阪府、兵庫県、京都府 【九州】福岡県(北九州市、福岡市) |
ただし、条例を制定し施行する必要があるため、これらの地域のうち、実際に特区民泊ができるのは、東京都の大田区と大阪府(独自に保健所を有する大阪市や堺市は除く)の区域のみです。
なお、大阪市は既に条例が制定されており、施行を待つ状況となっています。また、品川区においても、ホームページなどで特区民泊に前向きな姿勢を示しています。
特区民泊の現状(認定件数)
特区民泊の認定物件は、大田区で44部屋(申請17物件)、大阪で2物件となっています。当初は伸び悩んでいたものの、ここにきて件数は少しずつ増加しています。
特区民泊の定義と許可要件
国家戦略特別区域法における「国家戦略特別区域」において「外国人旅客の滞在に適した施設を賃貸借契約に基づき一定期間使用させ、滞在に必要な役務を提供するもの。」で特区の行政の長(知事、区長、市長)の認定を受けることにより、旅館業法の規定が適用されません。(国家戦略特別区域法第13条 )
旅館業法の規定が適用されないということは、特区法に基づき、自治体が制定した条例により、民泊を許可(法律上の表現を使用すると「認定」する)するというものです。
主な許可要件については、
●実施する区域・・・特区法に基づき実施区域が指定されています(前述)
●最低宿泊日数・・・これは特区法施行令で規定されています。
日数制限については、政令上の要件で、政令で指定される7から10日の範囲内で、各自治体が条例で最低日数を決定します。
現在条例が施行されている前記の区域においてはいずれも7日(6泊7日以上)と指定されています。
●施設の規模・設備等の要件・・・消防法令の適合部分を除き、旅館業法と比較して大幅に緩和されています(詳しくはこちら)
特区民泊の活用方法
現在問題となっている無許可民泊ですが、日本では旅館業法の規定に違反するため、正式な営業許可を取得する場合は、一部の例外を除き、旅館業法上の営業許可である、ホテル営業、旅館営業、又は簡易宿所営業のいずれかの許可を取得する必要があります。現実的には簡易宿所の営業形態が一番、民泊に近いと思いますが、許可が取れれば扱いはホテルや旅館と何ら変わりはありません。
特区民泊は旅館業法の適用が除外されるため、現在のところ日本で唯一といっていい民泊専用の適法な営業形態ともいえます。
特区民泊メリットを3つ上げるとしたら以下のような点です。
① 合法なのでAirbnb以外にも様々な媒体に掲載できる
完全に合法な民泊ですから様々な媒体に掲載して広告することが可能です。
民泊やバケーションレンタルのサイトとしては、Airbnb、HomeAway(エクスペディアグループ)、日本のSTAYJAPANなどがありますが、世界的な旅行サイトであるBooking.com(別荘として掲載)や6泊7日以上の賃貸契約ですから、ウィークリーマンションやマンスリーマンション的な貸し方も可能でしょう(特区民泊は宿泊契約ではなくあくまで短期の賃貸借契約です)。
② 泊めたくないゲストは宿泊拒否できます
ホテルではないので、レビューで評判がわるいゲストを泊めないことができます。
意外と知られていませんが、簡易宿所やホテルなどは旅館業法により原則として宿泊拒否ができません。
③ 設備投資のコストが低い
住宅をそのまま転用できるため、新た特区民泊を始めるために必要な費用は消防法令に適合させるための費用を除き、あまりかかりません。以下の表を参考にしてください(何れも最安値の見積価格です。)
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簡易宿所
(安めの見積価格を参考にしています)
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特区民泊
(当事務所が申請する場合の参考価格)
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消防法適合のための費用
●自動火災報知設備の設置
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25万~30万程度
(規模により異なります)
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25万~30万程度
(規模により異なります)
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※建築基準法・旅館業法に適合させるための費用
●トイレ増設工事
●浴室・シャワー室増設工事
●洗面台増設工事
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50万円~
50万円~
10万円~
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不要
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家具、防炎カーテン、寝具等の購入費用 | 0~40万円 |
0~40万円 |
申請に係る料金
●行政手数料
●申請に係る報酬
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2万円前後
25万~40万円程度(当事務所は25万円です)
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2万円程度
12万円
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合計 | 200万円前後 | 39万円~ |
注意:簡易宿所でも工事不要な場合がありますが、多くの場合、トイレの個数等が不足していますので設備関係の工事が必須です。もしも、簡易宿所の規格に適合する物件であれば、当然ですが、簡易宿所として許可を取得する方がメリットが高いと思います。
最後に
特区民泊制度をもっと活用すべきです。
民泊新法が制定されれば、登録制や届出制といった簡易な手続きにより、民泊は手軽に合法的に営業できるようになりますが、一方で、最大営業日数の制限が要件として付加される可能性があります(閣議決定までされていますから、まったく日数の規制がないというわけにはいかないと思います)。したがって、180日が最大の営業日数だとすると、年間稼働率は最大でも50%ということになります。年間半年の稼働でいいというホストもいるかもしれませんが、どちらにしろ新法の施行は2017年度からという見方が濃厚です。
したがって、フル稼働で宿をやりたいのであれば、簡易宿所などの旅館業法の許可ということになりますが、ワンルームや小規模な民家でやるにややハードルが高いといわざるを得ません。
許可の難易度やコスト的に考えれば、特に大阪や大田区に限れば、特区民泊が最善の選択肢ともいえますので、本格的にやるにしても、つなぎとしてやるにとても、第一候補としてに特区民泊を考えてみてはと思います。
6泊7日の日数については、現在のところアイデアや工夫で乗り切ってほしいと思います。
なお、日数については、特区法そのものではなく、特区法の施行令で規定されていますから国会の議決が必要なわけではありません。特区民泊の許可を取得する物件が増えて、日数制限がネックになっているという声を上げれば、4月に旅館業法施行令が改正され簡易宿所の面積要件が緩和されたように、実情に合わせた日数となる可能性も出てくるのではと思います。
当事務所では、特区民泊の許可を取得されようとする事業者さまを応援するため、当初と変わらぬ低価格で申請を承っていますので、大田区・大阪府で民泊をお考えの方は、簡易宿所を考える前にぜひ「特区民泊」についてご相談いただければと思います。
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