先日、マンションの管理組合の理事会に出席したこともあり、久しぶりにマンションと民泊の話をします。
さて、先日の規制改革会議の答申により、いよいよ、条件付きながら民泊解禁の可能性が出てきました。遠くない将来、合法的に民泊をやるマンションが出てくる可能性がありますが、一つ、気になるニュースがあります。
既にご存知かとも思いますが、大阪地裁で、マンション管理組合が求めていた民泊の差し止め(つまり「民泊禁止」)の仮処分について、管理組合の言い分を認め、民泊禁止を命じる決定が出たというものです(ただし今年の1月の話なのですが.. )
一応は、マンションでの民泊の考え方に対して、行政ではなく司法の立場から一定の解釈がなされた結果となりましたが、ここで、マンション、特に区分所有建物における民泊について整理してみましょう。
なお、記事の解説の前にまず定義を説明します↓
マンションに関する用語の定義
●区分所有建物
区分所有とは、例えばマンションの各部屋を構造上完全に独立して利用できるときは、各部屋ごとに所有権を与えるということです。通常分譲マンションは一部屋ごとに販売され、それぞれ所有者が異なるのが一般的です。ですから分譲マンションの1部屋ごとの所有を目的とした権利を"区分所有権"と呼ぶのです。
参考 区分所有法(抜粋) (建物の区分所有) 第一条 一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この法律の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる。 |
●マンション
マンションとは、2以上の区分所有者がいる建物のことを言います(マンションの管理の適正化の推進に関する法律2条1号)
●管理組合
マンションの管理を行う団体や法人をいいます(マンションの管理の適正化の推進に関する法律2条3号。区分所有法3条の区分所有者の団体のことです)。法人格がないものは単に管理組合、登記されて法人格があるものは「管理組合法人」と呼ばれます。両者に大きな違いはありませんが、銀行等への手続きを管理組合名で行えるか否かという違いはあります。
●管理規約
マンションのルールを自主的に定めたものが規約です。規約で定められることはたくさんあるのですが、法律(区分所有法や民法)に抵触しない限りは、どのように作ろうが自由です。しかし、多くの管理規約は国土交通省の雛形(見本)である『マンション管理規約(標準管理規約)』をベースに作られる場合が多いと思います。
違法民泊差し止めの概要
報道からの情報ですが、大阪市内にある100戸超の分譲マンションで、このうち2部屋が無許可民泊に使用されているとマンション管理組合が判断し、2015年11月に管理組合が大阪地裁に民泊差し止め仮処分を求めていたというもので、地裁がこれを認める決定を出したということです。
詳細はわかりませんが、仮処分による差し止めということは、おそらく、民事保全法に基づく仮処分「仮の地位を求める仮処分」のことだと思います。原発の稼働や出版の差し止めなどが有名ですが、民事保全法における裁判は判決ではなく「命令」とか「決定」などにより行われ、口頭弁論をしないですることが可能です。
いろいろな人が「"専ら住居として使用"という規約の文言に対して司法が"民泊NO"の判断を下した。」などというコメントを述べていますが、私は、推測ですが、おそらく、無許可民泊をやっている区分所有者のいい分などは聞いていないのではないかと思います。なぜならば、区分所有者側が言い分を述べて反論し、裁判所に再考を求めたいのなら、異議申し立てを行うはずですから..。
裁判手続きはさておき(※仮処分や異議申し立については弁護士や司法書士の先生のサイトをご覧ください。)本題です。情報が少なく、経緯は引き続き調べていますが、記事には
①このマンションの規約に「専ら住居として利用」
②区分所有法には、全体の利益に反する行為を禁じる規定がある
とありますが、よく、管理規約で問題となるのはやはり①の論点についてです。
「専ら住宅として利用」
このくだりは、標準管理規約の12条に記載があります
(以下、標準管理規約(国土交通省のひな形)の該当部分の抜粋です。)
第4章 用法
(専有部分の用途)
第12条 区分所有者は、それらの部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない。
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ちなみに"専ら"は"もっぱら"と読みます。
この件については2月に「マンションと民泊②(規約改正)」掲載しましたが、
司法判断はともかくとして、この規約の雛形を作った国土交通省自体が以下のように解釈しています。
第12条関係 住宅とし手の使用は、専ら居住者の生活の本拠があるか否かによって判断する。したがって、利用方法は、生活の本拠であるために必要な平穏さを有することを要する。 |
つまり、居住者の生活の本拠=住宅として使用と言っています。
行政側、特に自治体は、この生活の本拠とは、「住民票の取得」や「30日居住(昭和63年1月29日付厚生省生活衛生局指導課長通知を根拠)」などの解釈を行っている場合が多く、本年1月の大田区の特区民泊の説明会においても「30日(1月)未満の短期の賃貸借は、借家契約ではない」という趣旨の説明がされていました。
※昭和63年1月29日付厚生省生活衛生局指導課長通知をもとに、必ずしも期間の要件だけではないのですが、ウィークリーマンションは旅館業法上の営業だということとされています。
したがって、今回の仮処分の一つの考え方として、
短期の借家契約は→定期借家ではなく旅館業法上の営業(無許可)に該当する→旅館業法上の営業と同様であれば→住宅としての使用ではない
という理屈になるような気がします。実際のところ、裁判所の判断した理由はわかりませんが、民泊≠生活の本拠ということなのでしょうか。
マンションで民泊を禁止する方法
それでは、規約に「専有部分を専ら住宅(住居)として使用するものとし他の用途に供してはならない」と入っていれば十分なのか?というと、そうでもありません。
それは、上記の差し止め事件は仮処分であり、判例ではないからです。上記以外に民泊についての判例は私が知る限りはなく、こと、マンションについては、行政が民泊禁止の判断を下した解釈も見たことがありません。
つまり、民泊が「他の用途」に当たるのかの判断は公式にはなされていないのです。
したがって、マンションで絶対に民泊を禁止したいのであれば、規約を改正するなり、使用細則を定めるなりして何らかのルールを明文化する必要があります。
規約の改正自体は、管理組合の総会の特別決議で行いますが(こちらについては➡過去の記事を参照ください)、規約を改正するのであれば、なるべく早急に行う必要があります。
というのも、区分所有法は「一部の区分所有者の権利に影響を及ぼす規約の改正を制限」していますから(区分所有法31条参照)、民泊をやる区分所有者が増加すると、この区分所有の既得権として民泊が保護対象となり、規約改正自体が無効となる可能性も否めません。
特に新法により、家主居住のホームステイ型民泊が合法化されると、日数制限などの一定の要件がありますが、民泊ができるようになり、新法では、おそらくは住宅扱いということになる可能性が極めて高いので、この点では規約の「専ら住宅として使用」の条件を満たしていることになります。
ですから、規約の改正をするのであれば、なるべく急いだ方がよいということです。
民泊を認める場合
一方、マンションが民泊を容認するような場合においても(投資用などは容認する場合もありうると思います)、規約を民泊可能なタイプに改正すべきであると思います。投資用マンションだからといって、好き勝手に民泊経営をしていいかというとそうではないと思います。これは、事務所や店舗をやる場合と同様で、民泊をOKにするのであれば、ある一定のルールに沿って行われるべきであり、それが、「管理規約」であり「細則」であるからです。
ちなみに、住宅から商業用に転用するとなると、消防法や建築基準法上の規制のみならず、マンション全体としての税法上の優遇もなくなり、全体として固定資産税などが増加するリスクもあります。
したがって、規約を改正して民泊を禁止する場合も容認する場合もこの点をよく検討していただきたいと思います。どちらにしても簡単なことではないので、規約改正は、専門家の助言を得ながら行うべきでしょう。
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