ここ最近、連日、民泊の規制緩和に関するニュースが耐えませんが、ここで、規制緩和が市場に与える先例として、小泉構造改革で有名な、平成14年のタクシーの参入規制緩和を例にして民泊の今後を考えてみたいと思います。
1タクシーの参入規制の緩和とは
平成14年、規制緩和による行財政の構造改革として、当時の小泉政権は「聖域なき構造改革」をスローガンに景気回復を目指し、いろいろな規制や業界のルールの改革を行いました。
行政改革として、省庁再編、政府機関の廃止や独立行政法人化、郵政民営化、タクシーの参入規制の撤廃もこの流れの中で行われました。
1.1タクシー規制緩和の4つのポイント(許可から届出へ)
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認可制から 事前届出制に移行
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最低保持台数の緩和・・・これにより、小規模事業者が参入可能に
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営業所および車庫 所有から リースを可能に・・・ 〃
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車両 新車から中古車を可能に・・・ 〃
これにより、日本のタクシーの車両台数や事業者数は一時期大幅に増えました。
1.2 タクシー規制緩和の結果
それでは、規制緩和の結果どうなったのでしょうか?
規制緩和により業界全体やドライバーが潤ったかというと、決してそんなことはないと思います。タクシー規制緩和前後の業界の推移について見てみましょう。
1.3事業者数の伸びと台数の伸びにギャップ
確かに、改革以降飛躍的に法人事業者数は伸びていますが、台数自体はそれほど伸びてはいません。むしろ減っています。
これは、どういうことかというと、事業者は参入したものの、タクシーに乗る人、つまり経済規模は決まっているので、一時期、競争が激化し、ドライバーの質の低下(東京では台数を増やしたため、全国からドライバーを雇用したため東京の道を知らないドライバーが続出)、規制緩和後数年は事故発生率が増加、料金は思ったほど下がらないばかりか、平成18年をピークに規制緩和前よりもタクシーの台数は減ってしまい、現在は昭和55年の水準を下回るほど台数が減ってしまい、料金も値上げされました。
1.4規制緩和の犠牲者は労働者
特に台数については、東京や大阪などの都市部では目立って減少した印象はないので、おそらく都市部以外で台数が減少しているのでしょう。これに対応するために今になって、「特区で白タクを認めては?」ということになっています。
規制緩和により、確かに法人事業者数は増えましたが、
・結局、また台数規制を再開したため、台数は減少
・料金は値上げ
こうした中で、ユーザーはタクシー離れという結果になってしまいました。
↓平成26年度の市場規模です。規制緩和前の平成13年の市場規模(営業収入は)2.1兆円程度ですから、実に2割市場規模が縮小したことになります。
これは、民泊、ホテル旅館業も同じで、いくらインバウンド需要といっても、旅行者は無限ではないため、限りある財貨(パイ)をどのように分配するかということなので、規制緩和が必ずしも成功するとは限りません。
タクシーは規制緩和により、いくつかの新規事業者は成長し、今も営業を続けていますが、台数は減っていますので、競争の末、結局のしわ寄せは、従事するドライバーに来たのではないでしょうか?
2民泊の規制緩和とタクシーの類似性(許可制→届出制のリスク)
今回の民泊の規制緩和も許可制→届出制の流れなので、ある意味タクシーとそっくりです。
ただ、前回お話しした民泊解禁に付せられる「一定の要件として日数制限」は、完全に自由化しないという選択をすることにより過当競争を抑制しようとする意図があるのかもしれません。
経済政策としては、よく考えてみると評価できるところが多いと思います。多少は過去の教訓が生かされるかもしれません。
インバウンド需要を取り込みたい民泊事業者や不動産業会には完全自由化を求める声が多いと思いますが、必ずしも市場原理に任せるのが最善の策とは思えないところです。
タクシーに限らず、ショッピングセンターの建設を規制する大規模小売店舗法の廃止にも見られますが、結局のところ、勝ち残ったのは大企業と一握りの新規参入者だけで、シワ寄せは、労働者や利用者が負っているような気がします。
民泊も一歩間違えば、タクシーの二の舞になってしまう危険性をはらんでいます。
過当競争が激化して困るのは、実際には事業を営んでいる事業者です。仲介業者や物件を紹介する業者は致命的なダメージは受けません。その意味で、ホテル旅館と民泊事業者は同じ側の立場であるともいえますから。皆さんもこの辺りを真剣に考えてみてはと思います。
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